正しくない恋のはじまり

そのとき。

「……一点、よろしいでしょうか?」

静かな声が、空気を切り裂いた。全員の視線が、そちらに向く。
青砥さんだった。

彼は資料を眺めながら、この緊張感のある雰囲気の中で余裕のある顔をしていた。
ボールペンをくるくる手のひらで遊んでいる。

「この用地取得関連費の計上タイミング、少し不自然に見えるんですが」

ざわ、と空気が揺れる。

責めているわけじゃない。
ただ、事実を置いただけのような言い方。


それなのに、否定も言い訳も許されない空気が、一瞬で場を支配する。

心臓が、強く鳴る。

……やっぱり、この人は。

“見ている”。