あなた

『あなたは今日も悪事をしています。ばれないと思っているのでしょうが、私だけは知っています。
 実際、私以外にはばれていません。私だけが知っています。あなたは犯罪の才能だけはあるようですね。
 いえ、才能は他にもあるのでしょう。あなたは運動も、勉強も、頑張ればそこそこうまくできます。全部に本気で取り組めばもっといい成績をとれるでしょう。
 でもあなたはしない。かわりに悪事をしています。
 先日あなたはごみをぽい捨てしました。その中に猫の死体をつめていますね。それを拾った人を驚かせようという悪趣味のために猫を殺したのです。私はそれを知っています。
 別の日あなたは落書きをしました。ペンキ塗りたてとかいてあるベンチを取り消すように線を引きました。おかげでいつもそこで休憩する老人が動けなくなって寒さのあまり死にました。
 あなたは些細ないたずらを毎日するつまらない人間です。
 悪事の才能ばかりを伸ばして、他人に迷惑をかけ、それをこっそり見てほくそ笑んでいる、悪いやつです。
 その自覚があるのかあなたはたまに善行も成します。知っています。私はその善行に救われたものですから。
 だからこそ許せません。あなたは善行を成す才能があるのですから、悪行はこれきりにしてください。
 私はあなたに殺されるでしょう。
 そもそも最初の善行も、私を生かして希望を見せてから絶望した私を見たかったのかもしれません。そこは私には分かりかねます。ですが私にとってあなたは命の恩人です。
 もうすぐ死んでしまう私にかわって、あなたが善行を成してください。
 どうかお願いです。これ以上罪を重ねないで、まっとうに生きてください』
 私はあなたに手紙を書き終わると、背後を振り返りました。
「今日だと思っていました。あなたの犯罪を知る私を、生かしておくわけありませんからね」
 考えてみれば、あなたに直接殺される人間は私が最初で最後かもしれませんね。そうであればうれし――。
 
 あなたは善意の告発をしようとしてくれた人を殺しました。特に感慨もなく撲殺し、死体が早く腐敗するよう刻んで生ゴミの袋にいれました。他の袋も死体でいっぱいです。
 でもあなたは後悔もありませんでした。悪事をしても心が痛まなくなったのはいつからか思い出せません。もしかしたら最初からかもしれない、と笑いました。
 あなたは今日も悪事をしています。