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中学一年の秋、図書室の古い資料を整理していたとき、戦時中に掘られた地下通路が記された図面を偶然見つけた。
戦後にふさがれたはずの通路だったけれど、図書室の床に一枚だけ色の違う板があった。押すと、カチッと音がして持ち上がる。
狭くてほこりっぽくて、クモの巣だらけ。でも、この通路があるおかげで、私は誰にも見つからずに動けるんだ。
通路を抜けて昇降口へ向かい、三年生の下駄箱へ。莉奈先輩の下駄箱に、ミサンガをそっと置いた。
月明かりが差し込んで、ミサンガの糸がうっすらと光る。
よし、任務完了。
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翌日、金曜日の朝。私は、「見えない存在」に戻っていた。
いつものように分厚いメガネをかけて、重たい前髪で目を隠す。学校指定の真っ白なブラウスに、紺色のプリーツスカート。誰の記憶にも残らない、ただの背景。
昇降口の前を通りかかったとき、三年生の莉奈先輩が下駄箱の前に立ち尽くしているのが見えた。
背が高くてショートカットが似合う、かっこいい人だ。先輩の手には、あのミサンガがあった。
「良かった……戻ってきた」
先輩は声を震わせ、涙を浮かべていた。
「これがないと、みんなに顔向けできないところだった。ありがとう、怪盗ムーン様」
その言葉を背中で受け止めながら、私は誰にも気づかれないように小さく微笑んだ。
私、誰かを助けられたんだ。それだけで、胸の奥から温かいものがじんわりと広がってきた。



