「私でいいの? 他にもっと一緒に回りたい人、いるでしょ?」
「ううん。俺は、七瀬さんと回りたいんだ」
翼くんが、まっすぐ私を見る。
「……ダメ?」
そんなふうに、上目遣いで小首を傾げられたら……。
「……ううん。行く」
それから私は、翼くんと一緒に校舎を回った。
メイドカフェ、ダンス発表、展示。いつもは遠くから眺めるだけの文化祭が、誰かと一緒だと景色が変わる。
「七瀬さん、これ食べてみて」
翼くんが、買ったばかりのたこ焼きを差し出す。
「えっ、いいの?」
「遠慮しないで」
一口食べると、アツアツで美味しかった。
「美味しい……」
「良かった。七瀬さんの笑顔が、見られて」
翼くんが口元をゆるめる。
私、今、笑ってたんだ。
こんなに楽しい文化祭は、初めてかも。
夕暮れの校庭。翼くんと二人で並んで、校舎を見上げる。
「楽しかった」
翼くんが、ぽつりと言う。
「前の学校では……こういうの、できなかったから」
「文化祭を、誰かと回ること?」
「うん。……七瀬さんは?」
「私も」
翼くんが、こちらを向く。
「七瀬さんって、さ」
「なに?」
「なんで、そんなに人のために動けるの?」
「自分のためだよ」
翼くんが、目を見開く。
「誰かを助けると、少しだけ前に進める気がする。優衣ちゃんの手紙を守れなかった私が、誰かの大切なものを守れたとき──」
言葉が、途中で止まった。うまく言えない。でも、翼くんは急かさなかった。
「……そういうこと」
「そっか」
「翼くんは? なんで私を手伝ってくれてるの?」



