「松田先輩、高田先生に正直に話したって。怒られたけど、ちゃんと謝れたって」
「そっか。良かった」
「ああ」
二人で、廊下の窓から校庭を見下ろした。文化祭の準備をする生徒たちが、走り回っている。
「ねえ、翼くん」
「ん?」
「のぞみちゃんに、ありがとうって伝えておいてほしい。翼くんが話してくれたから、彼女は動けたと思うから」
翼くんは少し間を置いて、「俺は何もしてない」と言った。
「したよ。ちゃんと、した」
翼くんは、黙って窓の外を見つめた。夕日が廊下を、オレンジ色に染めている。
「……俺、また誰かを傷つけるかもしれないって、ずっと怖かった」
翼くんの声が、少しだけ低くなった。
「前の学校のこと?」
「うん。正しいことをしたつもりが、間違いだった。だから、今回もどこかで間違えるんじゃないかって」
「でも、今回は間違えなかったよ」
「……そうかな」
「翼くんは、のぞみちゃんを急かさなかった。結論を押しつけなかった。それが良かったんだと思う」
翼くんは、しばらく黙っていた。それから、小さく笑った。
「七瀬さんって、人のことよく見てるね」
「怪盗だから」
「……そうだね」
夕日が少しずつ沈んでいく。廊下に二人分の影が、長く伸びていた。



