翌日の昼休み。翼くんが中島のぞみちゃんに声をかける様子を、私は離れた廊下の角から見守った。
翼くんの声は聞こえないけれど、のぞみちゃんの表情が少しずつ変わっていくのが分かる。
最初は怯えた顔。それから、何かに耐えるような顔。
翼くんが何かを言ったとき、のぞみちゃんはぎゅっと唇を結んだ。翼くんは急かさなかった。ただそこにいた。
やがて、のぞみちゃんの目から涙がこぼれた。
それでも翼くんは動かなかった。声をかけるでも、なだめるでもなく、ただ静かに隣にいた。
五分ほどして、のぞみちゃんが頷いた。
翼くんが私のほうを振り返り、親指を小さく立てた。
良かった。翼くんの魔法が、のぞみちゃんの勇気に火をつけたんだ。
放課後、私は翼くんを捕まえた。
「のぞみちゃんに、なんて言ったの?」
翼くんは少し間を置いた。
「怖くて言えない気持ちは、俺にもわかるって。それだけ」
「それだけで、良かったんだよ。彼女にとっては」
翼くんは何も言わなかった。でも、さっきより少し、肩の力が抜けているように見えた。



