クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした


十月に入って最初の週。図書室で本を整理していると、翼くんがやって来た。

「七瀬さん、ちょっといい?」

「うん」

翼くんは、周りに誰もいないのを確認してから声をひそめた。

「御影先輩のこと。昨日も生徒会室から、怪盗ムーンの話が聞こえたんだ。校内の目撃情報を集めてるらしい」

「目撃情報……」

「俺が調べただけでも、もう三件ある。先輩、本気だよ」

翼くんがノートを開く。そこには、御影先輩の見回りのルートや時間が、細かく書き込まれていた。

「翼くん……これ、いつ調べたの?」

「先週から。七瀬さんを守るためには、相手の動きを知っておかないと」

私は、しばらくそのノートを見つめた。

「ありがとう。……でも、これは私が自分で考えなきゃいけないことだから」

「分かってる。だから情報を渡してるんだ。どうするかは、七瀬さんに任せるよ」

翼くんは、あの夜の約束を守ってくれていた。無理に助けようとするんじゃなく、私と対等でいてくれる。

「翼くんって、頭いいね」

「七瀬さんほどじゃないよ」

翼くんが、目を細めて優しく笑った。

こうして翼くんがいてくれるだけで、百人力だと思った。