「……」
静寂。
一秒、二秒、三秒。
廊下の角から、翼くんが現れた。夕暮れの光が、翼くんの輪郭を照らしている。思ったより、驚いた顔をしていた。
「……気づいてたの?」
「昨日から、ずっと考えてた」
私は翼くんを見返す。足は震えていない。
「あの手紙、翼くんが書いたんでしょ」
「どうして分かったの?」
「文章がきれいすぎた。それに、『今夜中に』って制限がつくのはおかしい。今までの依頼には、なかったから」
翼くんが、ゆっくりと頷く。
「……正解。さすがだね」
「あの写真も、翼くんが送ったんでしょ?」
「ああ」
翼くんは、ポケットからノートを取り出した。
「俺が確かめたかったのは、一つだけ。怪盗ムーンが本当に七瀬さんなのかどうか」
ノートを開くと、そこには私が借りた本のリストがびっしりと書かれている。
『探偵のための基礎知識』
『鍵の開け方入門』
『校舎の歴史と構造』
『夜間警備のパターン』
『体操競技の基本』
『手芸の基礎』
「怪盗に必要な知識を、全部図書室で勉強してたんだね」
「……よく調べたね」
「それだけじゃない」
翼くんが、別のページを開く。カレンダーに、赤い印がつけられている。
「九月十二日、莉奈先輩の事件の翌日から、七瀬さんは右足を引きずっていた。俺が転校してきたのはその四日後だったから、春野さんにさりげなく聞いてみたんだ。本人は気づかなかったと思うけど」
「凛ちゃんに……」
「そして、九月二十日。ひなのちゃんの事件の翌日、君は授業中に何度もあくびをしてた。夜遅くまで、リボンを直してたからだよね?」
一つ、また一つ。証拠が積み重なっていく。
「ねえ、翼くん」
私は、腕を組んだ。
「全部わかってたなら、なんで今まで黙っていたの?」
翼くんの手が、止まった。



