窓から入り込む風は生ぬるい。廊下を走ると、パーカーが汗で肌にはりつく。
角を曲がった、そのとき──。
パッ。
懐中電灯の光が床を照らした。
やばい、警備員さん……!
息をひそめて、私は古いロッカーの隙間へ滑り込んだ。体をぴたりと折りたたんで、膝を抱えて身を縮めた。
小学生のころ、体操教室で何百回も練習した姿勢だ。まさか、こんなふうに使うことになるなんて、思ってもいなかったけど。
カツン、カツン、カツン。
硬い革靴の音が近づく。一歩、また一歩。そして、ロッカーのすぐ前で止まった。
私は呼吸を止める。
懐中電灯の光が、ロッカーのすぐ横をなぞっていく。あと一センチ、光がずれれば、私の影が見つかってしまう。
──どうか、気づかないで! お願い……!
「……異常なし、か」
つぶやく声が遠ざかっていく。ふう、助かった。
ここは、私立の中学校だから。警備員さんの見回りは三十分おき。次が来る前に、任務を終わらせなきゃ。
立ち上がろうとした足がガクガクと震えていた。でも怖さじゃない。興奮のせいだと思う。むしろ体の中に火がついたみたいで、もっと速く走れそうな気さえした。
私は職員室へ向かって駆け出した。



