『怪盗ムーン様へ。
優しい解決方法だったね。
でも、次はもっと難しい依頼が来るかもしれない。
俺はまだ、君の正体を追ってる。
忘れないで。
──日向翼』
胸がざわついた。
「おつかれさま」でも「無理しないで」でもない。最後の一文が、くっきりと頭に残った。
『俺はまだ、君の正体を追ってる』
応援してるのか、追っているのか。どっちなの、翼くん。
顔を上げると、翼くんはドアのところで足を止め、こちらを振り返っていた。
「七瀬さん」
「……なに?」
「指、絆創膏貼ったほうがいいよ」
翼くんの鋭い視線が、私の薬指に落ちる。針をさしたところに、小さな赤いあとが残っていた。
「……またケガしたの? 今週で何回目?」
低い声の中に、いたずらっぽく笑っているような響きがある。
「……一回だけだよ」
「そっか」
翼くんは「うそだね」と言いたそうな顔のまま、軽やかに図書室を出て行った。
私は、傷のある指先を、そっと握りしめる。
全部、お見通し。なのに、どこまでが本気なのか、全然わからない。
胸のドキドキが、静寂をかき消した。



