「図書委員の、七瀬先輩ですよね?」
「うん」
ひなのちゃんは、もじもじしながら言った。
「私、中村ひなのです。あの……怪盗ムーン様に、お礼を伝える方法ってありますか?」
前髪の奥から、私はひなのちゃんを見る。
「どうして?」
「リボンのこと、伝えたくて……守ってくれて、直してくれて、ありがとうって」
ひなのちゃんは、嬉しそうに笑った。
「相馬先輩とも仲直りできたんです。私、先輩のことずっと誤解してた。……ムーン様が、きっかけをくれたんだなって」
前髪の奥で、ひなのちゃんの笑顔をじっと見る。
私は制服の裾を、少し強く握った。
「きっと……伝わってると思うよ」
「本当ですか?」
「うん。怪盗ムーンは、みんなの笑顔が見たいだけだから」
ひなのちゃんは、大きく頷いた。
「じゃあ、私、新体操の大会でもっと頑張ります! お母さんのリボン、ずっと大切に使います!」
ひなのちゃんは、元気よく走って行った。
廊下の前方で、相馬先輩と出会ったひなのちゃんが、笑いながら話している。二人とも、素敵な笑顔だ。
一本のリボンが、二人を繋いだ。
──これも、怪盗ムーンのやり方。
*
放課後の図書室。夕焼けが、校舎をオレンジ色に染めている。
ドアが開いて翼くんが入ってきた。
「こんにちは、七瀬さん」
「こんにちは」
翼くんは、カウンターに近づいてくる。
「新体操部の件、うまくいったみたいだね」
「……そうみたい」
翼くんは、カウンターの上に小さなメモを置いた。
「これ、落ちてたよ」
そう言って、出口のほうへ歩き出す。
何だろう? 私は、折りたたまれた紙を開いた。



