クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした


九月二十一日、土曜日の早朝。

まだ誰もいない校舎。朝の光が、廊下を淡く照らしている。

部室のドアを開けると、相馬先輩が待っていた。私服姿で、緊張した面持ち。

「七瀬さん……」

「おはようございます」

私はカバンからリボンを出す。

受け取った先輩の指が、縫い目の上をなぞった。

「ちゃんと……繋がってる」

「きれいじゃないですけど」

先輩は首を横に振る。

「すごいよ、七瀬さん」

リボンを胸に抱きしめた先輩は、しばらくそのままでいた。

「ひなのに、渡してくる」

「はい」

「試合のあと、ちゃんと謝る。言葉になるかわからないけど……それでも」

「大丈夫です。きっと、うまくいきますよ」

先輩は少し目を丸くして、それからふっと笑った。

「うん。そうだね」



私は新体操部の試合を、客席から見ていた。

試合の間、ひなのちゃんのリボンが何度も空を舞った。くるくると弧を描いて、照明を受けてきらめくたびに、星のチャームが小さくまたたいた。

縫い目がほどけることも、チャームが外れることもなかった。お母さんのリボンは、ひなのちゃんの演技をしっかりと支えていた。

そして、夕方。試合が終わったあとの体育館。

相馬先輩が、ひなのちゃんに近づく。

みんなが帰っていくなか、私は入口近くの陰から二人の様子を見ていた。