『焦ったらダメ。布は正直だから、気持ちが出ちゃうよ』
優衣ちゃんの声が、耳の奥で聞こえた気がした。
私は、針に糸を通す。ピンクに近い細い糸を選んだ。縫い目が目立たないように。
「まつり縫い」──縫い目が表から見えない、優衣ちゃんが教えてくれた縫い方だ。
布の端を少しだけ折って、そっと針を通す。反対側の布をちょん、とすくって、また戻る。
一針。また一針。
小学生の頃、学校の手芸クラブで失敗ばかりしていた私。糸がからまるたびに、優衣ちゃんに笑われた。
『ふふ。美月ちゃんの縫い目、ぐにゃぐにゃ』
『うるさいな』
『大丈夫だよ、こうするの。ほら』
小さな手が私の手に重なって、針の持ち方を直してくれた、あのときの温かさ。今でも、指が覚えている。
最初の数センチは、縫い目がそろわなかった。布の張り加減がわからなくて、引きすぎてしまう。
五センチほど縫ったところで、私の手が止まった。
縫い目が、表から見えてしまっている。まつり縫いになっていない。
やり直しだ。
糸をほどいて、もう一度。今度は針の角度を変えて、もっと浅くすくう。
一針、また一針。
今度は、縫い目が布の裏に隠れた。
縫いながら、ひなのちゃんがこのリボンを振る姿を思い浮かべる。
くるくる回って、光を受けて輝くリボン。その先端に、お母さんの残した星のチャームがきらりと光る。
あと少し、もう少し。
そのとき、針が指にささってチクッとした。
「痛っ……」
思わず声が出る。見ると、指先にぷくっと赤い小さな点ができていた。
指を口にくわえて、血をふきとる。
でも、この手は止められない。ひなのちゃんの笑顔のために。
「美月、まだ起きてるの?」
ドアの向こうから、お母さんの声がする。



