「このリボン、先輩がひなのちゃんに返してあげてください。自分の手で」
先輩は息を止めた。
「『ごめんね』って、ちゃんと伝えてください。言葉がうまく出てこなくても、自分の口で」
先輩はしばらく黙っていた。それから、こくりと頷く。
「わかった。逃げずに、ちゃんと謝らなきゃいけないね」
カバンにリボンをしまいながら、ふと凛ちゃんのことを思った。
この依頼を書いてくれたのは、凛ちゃんだ。ひなのちゃんのために、便せんの端が波打つほど、泣きながら書いたかもしれない。
凛ちゃん、私ちゃんとやるよ。
「明日の朝、ここに来ます。先輩も来てくださいね」
「うん……」
相馬先輩は、目元をそっと拭った。
「七瀬さん、ありがとう。私あなたのこと、もっとちゃんと知りたいな」
何も言えなかった。ただ、マスクを戻す。
「先輩……今度の試合、頑張ってください」
「ありがとう」
窓から外に出ると、夜風が頬を撫でた。冷たいけど、心地いい。
今日は、何も盗んでいない。
その代わり、約束をした。リボンを直して、二人をつなぐ約束を。
*
その夜。自分の部屋で、私は机にリボンを広げた。
淡いピンク色の布。裂けた部分が、口を開けるように広がっている。
私はまず、裂けたところを指でそっと整えた。ばらばらになった布の端を、元の向きに戻す。
急いで縫い合わせると、余計に形が歪む。



