クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした


「ただ盗むだけじゃないのかもね」

「え?」

「例えば、壊れたものを直すとか、人と人を仲直りさせるとか。そういうことができる怪盗なら……俺は、応援したくなる」

息が止まりそうだった。

「ところで、七瀬さん」

翼くんは、本棚の間に置いてあった私のカバンをちらりと見た。

「今日の昼休みに、裁縫の本を何冊も調べてたよね?」

肩がびくっと跳ねる。

破れた布を縫い合わせる方法、飾りをつけ直す方法。

確かに、ひなのちゃんのために何かできることはないかと思って調べていたけど。

まさか、翼くんに見られていたなんて……。

「縫い物は、一針一針、丁寧に。急ぐと、針って指に刺さるから。気をつけてね」

それだけ言うと、翼くんは図書室を出て行った。

私は「はあ……」と、息を吐く。

あんなにも色々と言い当てられて、心臓に悪いよ。

おそらく翼くんは、全部わかっている。なのに──どうして何も言わないんだろう。



図書委員の仕事が終わった帰り道。体育館の裏を通りかかったときだった。

「……ううっ……」

小さな泣き声が聞こえて、私は足を止めた。

声がしたほうに目をやると、体育館の壁に背をつけて、新体操部のジャージを着た小さな女の子が一人でうずくまっていた。ひざを抱えて、肩を震わせている。

「お母さん……ごめんなさい……」

女の子は、両手をひざの上でぎゅっと握り締めていた。手の中には何もない。あるべきものが、ない。

あの子が──中村ひなのちゃん。

声をかけようとしたけど、言葉が出なかった。

私は静かにその場を離れた。

絶対に、リボンを取り戻してみせる。そう心に決めて。