「えっと……こちらです」
私はできるだけ普通の声で答えながら、本棚へ案内する。
翼くんは、棚の前で立ち止まった。
「この学校の警備って、三十分ごとに見回りがあるんだって」
「……そうなんですか」
「でも、非常口のセンサーは別らしい。面白いね」
さらっと言って、本を抜き取る翼くん。視線は本の背表紙に向いているのに、どこか別のものを見ているような気がした。
「これ、借りていくよ。ありがとう、七瀬さん」
翼くんはいつもの爽やかな笑顔で、カウンターへ向かった。
「あ、そうだ」
翼くんは思い出したように足を止めて、こちらを振り返った。
「そういえば、新体操部で何かあったみたいだね」
私の指が、整理中の本の背をぎゅっとつかむ。
「昼休み、渡り廊下で、相馬先輩がすごく暗い顔をしてるのを見たんだ。誰かを傷つけて、どう謝ればいいかわからない顔だった」
あっさりと言いながら、翼くんの視線がこちらをとらえる。
どうして、そこまでわかるの……。
「さあ……私は知らないけど」
「そっか」
翼くんは一歩近づいた。夕日が彼の影を、私の足元に落とす。
「怪盗ムーンってさ」
心臓が跳ねる。



