私の名前は、七瀬美月。十四歳の中学二年生。
学校では、ほとんど誰にも気づかれない。いわゆる「透明人間」だ。
「おはよう」
教室で声をかけても、誰も振り向かない。みんな友達とのおしゃべりに夢中で、私の声なんて聞こえていない。
窓際の一番後ろの席。いつもの場所に腰かけた。
お昼ごはんの時間も同じだった。班になっても、私の席だけがぽつんと離れている。
「一人、二人、三人、四人……うん、全員いるね!」
リーダーの子が、にっこりと微笑む。
……本当は五人なのに。
私の頭の上を、誰かの視線が素通りしていく。私はそこにいるのに、数えられていない。
分厚いメガネをかけて、長い前髪で目を隠して、誰とも目を合わせない。空気みたいに、そこにいても気づかれない存在。
それが、昼間の私。
だけど、夜になると──私は変わる。
九月十二日、木曜日。午後八時。真っ暗な校舎の廊下を、黒い影が走る。
それは私。今の私は、怪盗ムーン。
黒いパーカーと黒いマスク。月のマークが描かれたカードをポケットに忍ばせて、夜の学校を駆け回る。
目的は一つ。「誰かの宝物」を取り戻すために。
怪盗ムーンには、三つのルールがある。
一つ、誰かの大切な宝物しか盗まない。
二つ、人を傷つけない。
三つ、必ず持ち主に返す。
これが、私が決めたルールだった。
昼間の美月とは別人みたいに、足が軽い。体が喜んでいる。暗闇の中でこそ、私は私になれる気がした。



