「ごめんね。あれ、他のプリントと一緒に片付けちゃった。もうどこにあるか分からないわ」
「え……失くしちゃったんですか?」
「わざとじゃないわよ。元はと言えば、授業に関係ないものを持ってくるのが悪いの。七瀬さんもいつまでも過去にしがみついてないで、前を向きなさい。あんなの、ただの紙切れでしょ」
「……っ」
頭をぶたれたような衝撃に、ひざの力が抜けた。
先生にとっては「ただの紙切れ」でも、私にとっては優衣ちゃんとつながる唯一の「心」そのものだった。
ルールを破った私が悪いことはわかっている。だけど、心まで踏みにじられていい理由にはならないはずだ。
あのあと、私は泣きながら学校中のゴミ箱を必死に探した。
夜の校舎で、真っ黒に汚れたゴミ袋をいくつも開けて……だけど、優衣ちゃんの手紙は二度と戻ってこなかった。
泥だらけの手で校庭にうずくまって、ひとりで泣いた。
そのとき、私は二つのことを決めた。
もう誰にも期待しない。傷つくくらいなら、最初から見えない存在でいたほうがいい。
そして、もう一つ。
誰にもあんな嫌な思いをさせたくない。大切なものを失ってほしくない。
だから私は、怪盗ムーンになった。



