小学六年生の春。幼稚園からの親友・優衣ちゃんが、お父さんの仕事の都合でアメリカに引っ越すことになった。
お別れの日、優衣ちゃんが手紙をくれた。ピンクの便せんに、丸い字で書かれた言葉。
『美月ちゃんは、私の一番の友達。ずっとずっと、忘れないよ』
それは私の、世界でたった一つの宝物だった。
毎日、ランドセルのいちばん奥のポケットに入れて持ち歩いた。取り出すたびに優衣ちゃんの顔が浮かんで、少し元気になれた。
心細い日も、クラスで誰にも話しかけられない日も、あの手紙があれば大丈夫だと思えた。
だけど、小学六年生のある日。
先生が黒板の前で説明をしている間、私は見つからないようにそっと手紙を取り出した。折り目のついたピンクの便せんを、ひざの上で静かに広げる。
優衣ちゃんの丸い字を目で追うだけで、遠い場所にいる彼女のことを近くに感じられた。
「七瀬さん!」
担任の先生の声が飛んできた。
「授業中に、そんなの見てちゃダメでしょ」
先生は冷たい声で言って、手紙をひったくった。乱暴に折りたたまれた便せんが、先生の手の中に消えていく。
「これは、あとで返すわ」
先生がそう言ったから、私は信じて放課後を待った。
それなのに。



