クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした


「待ちなさい、怪盗ムーン!」

後ろから声が響いた瞬間、私は夜の校舎を全力で駆けだした。

今のは、誰の声? 先生? それとも……。

振り返る余裕なんてない。早く逃げなきゃ。

今は、絶対につかまるわけにはいかない。

ポケットの中には、取り戻したばかりのミサンガ。赤と青と黄色の糸で編まれた、莉奈先輩の宝物だ。

あと少し、もう少し。逃げ切れば、今夜の任務は成功だ。

私は角を曲がり、古い物置の影に滑り込んだ。

足音が廊下を走り過ぎる。急いでいるのか、こちらには気づかなかったみたい。

ふう……。

私は冷たい壁に背をつけて、息を整えた。忍ばせていたミサンガが、指先に触れた。やっと取り戻せた。

胸のドキドキはまだ続いているけれど、それよりも深いところから、じわじわと満ち足りた気持ちが広がっていく。

そのとき、ふと頭をよぎった。

あの転校生が来るまでは──私の秘密は、完璧に守られていたはずだったのに。