人形姫と秘密のお役目

 一つの部屋に、かすかな衣擦れの音だけが響いていた。

 私は人形を前に置き、ゆっくりと息を整える。

 細く伸ばした霊力を、指先からそっと絡めるように繋げると人形の腕が、わずかに持ち上がった。


「……もう少し」


 小さく呟きながら、さらに力を込める。

 ぎこちない動きだった腕は、次第に滑らかさを帯び、やがて本物の生き物のように、自然に動き出した。

 人形が一歩、歩く。

 続いて、もう一歩。

 足音はない。
 けれど確かに、そこに“存在”している。


(まだ、完全ではないけれど)


 視界を預けるには、少しだけ不安定だ。

 距離も、角度も、ほんのわずかにずれる。
 それでも、直接“視る”よりは、ずっといい。

 そのときだった。


「……あれ」


 私は動きを止め、外へ意識を向ける。

 距離はあるが、東の方向から嫌な気配がしたからだ。

 人形越しに外を見れば空が暗く“アレ”が本格的に活動し始めるのには十分な時間帯になっていた。