野球、やりませんか⁉

 相手チームのアップも終わり、間もなくプレイボールというタイミングで、理事長先生がグラウンドに姿を現した。


「このチームに勝てないようでは、全国制覇など到底ムリですからねえ。さくっと勝って、野球部が意義のある活動だと、ぜひわたしに認めさせてくださいよ?」


 そんなこと、微塵も思っていないクセに……。


 あまりに悔しくて、ぎゅっと両方のこぶしを握りしめる。


「理事長もああ言ってることだしさ。認めさせてやればいいんじゃない?」

 すぐ隣で、有沢くんののんびりとした声がする。


 わたしが有沢くんを見あげると、有沢くんもわたしを見てへらりと笑う。

 そんないつもと変わらない有沢くんを見ていたら、心がすーっと落ち着いていった。


「うん。そうだね」

 にこっと笑って返すと、有沢くんも笑顔で大きくうなずき――そのまま有沢くんの表情がピキッと固まった。


「どうしたの?」

 わたしの問いには答えず、有沢くんがつかつかと大股で歩きだす。


 その先――一塁側の星黎学園ベンチからだいぶ離れたところに、黒いマスクをして黒いキャップを目深に被った、全身黒ずくめの不審人物が一人。


 え、だ、大丈夫なの?


 心配になって、有沢くんの背中を追いかける。


「ねえ、なにやってんの?」

「わっ! おい、返せっ!」

 有沢くんに奪われたキャップを取り戻そうと必死な様子の――あれっ、ひょっとして……。