野球、やりませんか⁉

 今日は用事があって自主練せずに帰るって言ってたから、有沢くんは来ないはず。

 バットは家の前でも振れるけど、守備練はここじゃないとできないんだよね。


 こっそり忍ばせていたグローブとボールをカバンの中から取り出すと、いつも有沢くんがピッチング練習をしている壁の前に立つ。


 壁に向かってボールを投げ、返ってきたボールを素早くキャッチしてまた壁に向かって投げる。

 いわゆる壁当てなんだけど……これって、こんなに難しかったっけ⁇

 しばらくやってなかったせいか、全然思うように体が動いてくれない。

 そのことに焦って、簡単なボールまで弾いてしまう。


「……このままじゃ負けちゃう」

 地面に転がったボールをしゃがんで拾いながら、そんな言葉が口からこぼれ落ちた。


 ……え。わたし、今……。


 おかしいな。さっきは負けてもいいって思ったはずなのに。

 このまま中山くんが上達するのが一番だって思ったはずなのに。


 なんで中山くんに負けたくない、だなんて思ってるんだろ。

 なんで……わたしは女子なんだろ。


 右手に持ったボールに視線を落とすと、ぎゅっと握りしめる。


「――素直に練習に加わればいいのに」

 突然声がして、パッと顔をあげる。


 広場の入り口の方を見ると、有沢くんが立っていた。