野球、やりませんか⁉

 わたしとの勝負に備えてなのか、その日から中山くんは真面目に練習に参加してくれるようになった。

 そして、今までは捕れなかったような難しいバウンドのボールをうまくキャッチするたびに、わたしに向かってドヤ顔をするんだ。


 くーっ、悔しい!

 わたしだって、そのくらい……。


「棚橋もシートノック入れば?」

 有沢くんの声に、ハッと我に返る。


「わたしは……ほらっ、マネージャーの仕事が忙しいから。……はい、ボール」

 ノッカーの有沢くんに次のボールを手渡すと、有沢くんがボールを素早く打つ。


「ナイス、ショート!」

 ビックリした。一瞬、わたしの心の声が聞こえちゃったのかと思ったよ。


「ほんとに練習しなくていいのかよ、マネージャー? オレに負けても練習不足のせいにだけはすんなよな」

 中山くんがニヤニヤ笑いながら言う。


「大丈夫。わたしもちゃんと自主練してるから。中山くんこそ、自分の心配した方がいいんじゃない?」

「はあ⁉ さっきのファインプレー見てなかったわけ? ああ、そっか。ど素人すぎて、あれが難しい球だっつーこともわかんなかったんだろ。まあ、それはしょうがねえわなあ」

 ふふんっと鼻で笑いながら、中山くんがわたしに敵意に満ちた眼差しを向けてくる。


 ……ねえ、これ、思った以上に効果あったんじゃない?

 今まではあんなに文句ばかり言って、イヤイヤ練習に参加してるっぽかったのに、今の中山くんはなんだか生き生きして見える。


 この勝負、負けたっていいじゃない。

 このまま中山くんが上達してくれるのが、チームのためには一番なんだから。


 頭の片隅でそんなことを考えながらも、部活が終わると、わたしの足は自然とあの広場へと向かっていた。