アゲハさんって知ってる?

 ねえ、アゲハさんって知ってる?

 もしこの名前に心当たりがないなら、この話をよく聞いて?

 アゲハさんっていうのはね、ずっと昔にあった見世物小屋で「蝶の羽根を持つ女」として見せ物にされてた女の人のことなんだ。 でも、人間から本物の蝶の羽根が生えるわけないじゃん? だから、彼女はね、頭のおかしくなった見世物小屋の主人に、背中の皮膚を深く切り裂かれて、そこにでっかい蝶の標本の羽根を太い糸で縫い付けられちゃったんだって。しかも、生きたまま。

 麻酔なんてない時代だよ? 

 想像しただけで痛いでしょ。彼女は血と涙を流しながら、無理やり笑わされて見世物にされ続けた。 でも、一番ヤバいのはその後でさ。昔の不衛生な小屋だったから、その縫い付けられた傷口からすっごいバイ菌が入っちゃって。 彼女、高熱を出して、耐えられないくらいの痛みと痒みの中で、自分の背中を爪が剥がれるくらいかきむしって……最後は狂って死んじゃったらしいよ。

 それでね。アゲハさんは、今でも自分の「本物の背中」を探して、夜な夜な現れるらしいんだ。 この話を知ってしまった人に、夜中、アゲハさんが夢の中に現れて、生きたまま背中の皮をベリベリってむごたらしく引き剥がしちゃうんだって。

 マジでえぐいよね。私、この話聞いたとき、気持ち悪くて吐きそうになった。

 でも、この呪いから助かる方法が、たった一つだけある。

 それは、「このアゲハさんの話を誰かに話せば、アゲハさんがそっちに行く」ってこと。この話を知っちゃった時点で、アゲハさんが夢の中に出るんだけど、別の誰かに話をすれば、そっちにアゲハさんが移るんだって。

 ……本当にごめんね。私、この話を知ってからずっと、怖くて。

 でも、同じクラスの親友や、仲の良い友達に話したり、これを送って身代わりにするなんて、私にはできなかった。

 だから、どうしても他に相手が見つからなくて……。顔も名前も知らない誰かに移すことしか思いつかなかったの。この小説サイトに書き込んだのは、私の身勝手です。最低だよね。本当に、本当にごめんなさい。

 でも、これで安心した。

 これを最後まで読んでしまったあなたのところに、今夜、アゲハさんが行くから。