前世の婚約者は王太子殿下でした

 煌太郎がそっと耳打ちをして、社交界の場から桜和を連れ出した。
 人目がなくなったところで桜和のやわらかい手を握って歩く。
 着いた先は野宮邸の中庭で、花壇には薄紫色の紫苑が咲き乱れていた。

「うわぁ! 綺麗ですね!」
「桜和はこの花、好き?」
「はい。先日いただいたお花も、いつまでも持っていられるようにいくつか押し花にしたくらいです」

 キラキラと瞳を輝かせながらうれしそうに話す桜和に、煌太郎は心から愛しい感情が湧いてきた。
 中庭に咲いていた花を摘んで渡しただけで、そんなによろこんでもらえるとは思ってもみなかったのだ。

「今の時期しか咲かないけど、こんなのいくらでも届けられるのに……」
「煌太郎様からもらったものだから大切なんですよ。ひとつひとつ全部大事にしたいんです。この先もずっと」

 今の言葉で胸を打ち抜かれた煌太郎は、桜和を抱きしめずにはいられなかった。

「桜和、心から愛してる」

 煌太郎の胸に顔をうずめながら、桜和がそっと上を向いた。

「私も。心から煌太郎様をお慕いしています」
「仲のいい夫婦になろうな。幸せに暮らそう」
「はい」

 煌太郎は満足そうに微笑み、小さくてぷっくりとした桜和の唇に口づけをした。
 ふたりには輝かしくて幸せな未来が待っている。
 そう信じて疑わなかった。――――このときまでは。