前世の婚約者は王太子殿下でした

「ほかにも素敵な令嬢はたくさんいるし、煌太郎なら引く手あまたなのに。まったく……我が息子ながらあきれる」

 母親はフンッと鼻をならし、やっていられないと言わんばかりにふたりから離れていった。

「お義母さま……ずいぶん怒っていらっしゃったわ」
「大丈夫だよ。気にしないで?」
「このドレス、地味だったでしょうか?」

 小さな声で問いかける桜和に、煌太郎は首を横に振った。

「そんなことない。言っただろう? 桜和は世界一綺麗だよ」
「ありがとうございます。どの色のドレスにしようか迷ったんですが、煌太郎様にいただいた紫苑(しおん)の花の色を思い出して、これに決めました」

 照れて恥ずかしそうに笑みを浮かべる桜和の姿がかわいくて、煌太郎はこの場で抱きしめたくなったが、なんとかその衝動を抑えた。

 ふたりの出会いは半年前。
 とある侯爵家の社交界を訪れた際、互いに一目惚れに近い形ですぐに恋に落ちた。
 母親の言うとおり、眉目秀麗な煌太郎は引く手あまたで、方々(ほうぼう)から見合いの話が来ていたのだけれど、桜和と出会った煌太郎は彼女しか目に入らなくなる。
 娶るなら桜和を、と当主である父親に強く要望したことから、とんとん拍子で見合いを経て婚約へと進み、現在に至っている。

「桜和、ちょっとおいで」