前世の婚約者は王太子殿下でした

 結局迷った末、薄い紫色のドレスにしたのだけれど、やはり嫌味からは逃れられなかった。
 だが桜和にとってはこれも想定内。愛想笑いをしながら「すみません」と謝っておけばいいだけのことだ。

「桜和は気を使ったんだよ。奥ゆかしいんだ。本気で着飾ったら桜和が世界で一番美しいに決まってる」
「煌太郎様……」

 桜和の後ろに煌太郎が現れ、包み込むようにそっと肩を抱き寄せると、彼女の頬はあっという間に桜色に染まった。
 額を隠すサラサラの黒髪、凛々しい眉、やさしさを含んだ黒い瞳。
 タキシードを身に纏った煌太郎は背が高く、手足が長い。
 こんなに完璧な男性は、どこを探してもほかにはいないと、桜和はあらためて惚れ直した。

「ほら、髪も肌もつやつや。美人だから和装も洋装も似合う」

 煌太郎は両手で桜和の手をとって愛おしそうになでた。
 それを見た母親は、ぎょっとして眉をひそめる。

「いい加減になさい。はしたない」
「桜和とは結納を済ませたから、もう妻も同然だ。これくらいかまわないと思うけど」
「私はね、まだあなたたちの婚約を認めていないの。予言まがいな夢の話をする嫁なんて気味が悪くて仕方ないわ」
「なんてこと言うんだよ!」

 今度は煌太郎が嫌そうに顔をしかめた。
 それを見た桜和はすぐさま煌太郎の服の袖を引っ張って合図を送る。
 あまり桜和をかばいすぎると、母親はさらにヘソを曲げてしまうだろう。