前世の婚約者は王太子殿下でした

 焦りの素振りなど微塵も見せず、オスカーは平然とそう言い切った。
 国王は顔をしかめ、その隣にいる王妃は恐ろしさから身体をブルブルと震わせている。

「料理は毒見係もおりますし、安全でしょう。国王陛下、それではどうぞ宴をお始めください」
「オスカー……」
「私は調べることがありますゆえ、ここで退席いたします。どうかお許しを」

 オスカーは毒入りのグラスを持って静かに立ち上がり、数名の侍従たちを従えて颯爽と大広間を出ていった。
 残された者たちは一様に口を閉ざして神妙な面持ちになっている。

「――宴は中止だ」

 しばらくして国王がそう宣言した。
 笑みをたたえて和やかに酒を酌み交わす雰囲気ではなくなったのだから、当然の成り行きだ。

 オスカーは普段執務室として使っている部屋の扉を開け、最奥にある豪奢な椅子に腰を下ろした。
 
「毒を仕込んだのは給仕係のうちの誰かでしょうか」

 感情を抑えきれない様子のルシアンが続けて部屋の中へ入ってきて、オスカーに詰め寄るようにして尋ねた。

「落ち着け」
「あれをそのまま口にされていたら命を奪われていたかもしれないのに、落ち着いてなどいられません!」

 ルシアンは王太子であるオスカーからたしなめられても、感情のまま憤りの言葉を口にする。
 こんなに怒るのは本気で心配している証拠だと、オスカーは顔に出さないものの内心ではその気持ちがうれしかった。