前世の婚約者は王太子殿下でした

 オスカーは静かに言い、そばに佇む給仕係の女性の顔をじっと観察した。
 女性は一瞬ポカンとしたあと、自分になにか不手際があったのかと動揺し始める。

「ルシアン、別のグラスを」

 オスカーが後方に控えていた侍従のルシアンに伝えると、彼は手元で隠すように持っていた銀製の器をテーブルの上にそっと置いた。
 ルシアンはこのタイミングで器を出すよう秘密裡に知らされていたので、なにも驚くことなく無駄のない動作で再び後方へ下がっていく。
 国王がそれに気づき、オスカーに視線を向けた。

「オスカー、どうしたのだ?」
「恐れながら国王陛下に申し上げます。飲み物に毒が入っているやもしれません。乾杯はしばしお待ちを」

 その言葉を聞いたブノワ王はキュッと眉をひそめた。
 会話は貴族たちにも聞こえていたため、当然あちこちでザワザワとし始める。

「毒? 誰が盛るというのだ」

 横から口を挟んだのは国弟のフョードルだった。

「見よ、オスカー。お前のせいでせっかくの宴が興ざめだ」

 フョードルは不機嫌さを全面に顔に出し、やれやれと言わんばかりに大げさに息を吐く。