前世の婚約者は王太子殿下でした

 にこりと微笑んでうなずいたところで、レーナは目を覚ました。
 次にぼんやりと視界に入ってきたのは寝起きしている部屋の見慣れた天井だ。

 まだ頭がすっきりしないままベッドから出て、覚えている範囲をノートに書きこんでいく。
 ここ最近、おかしな夢を見る現象が何度か続いているので、忘れないよう記録に残すことにしたのだ。

 今朝の夢では、レーナは“お嬢様”と呼ばれていた。貴族の娘のように大事に扱われていたのは間違いない。
 登場する人物はみんな見たことのない服装をしていて、自分を含め女性は長い髪を上部で結わえていた。

 しかし、“まがれいと”とはなんなのか。
 目にする風景や交わす会話ははっきりと覚えているのに、相手の名前や自分がどこにいたのかはわからない。
 レーナはモヤモヤしながらノートを閉じて、朝の身支度を始めた。

 この日もレーナは調理場を手伝うことになった。
 自然と頭に浮かぶのは眉目秀麗なオスカーの顔。彼が毒を飲まされて倒れる姿だ。
 食料庫の隣にあるワインの貯蔵室に入ってみたが、特に変わった様子はない。
 レーナはあちこち見て回ったあと、ほうっと息を吐く。普段出入りしていない自分が見てもわかるはずがないのに、と。

「レーナ? そこでなにをしているの?」

 声をかけられてビクリと肩を震わせる。振り向くと、マリーザが不思議そうな顔をして立っていた。