前世の婚約者は王太子殿下でした

 高貴な男性が、毒を盛られたワインを飲み、血を吐いて床へ倒れ込む。

(ダメ! 毒が入ってる!)

 身体を揺り動かされたことで、ベッドで寝ていたレーナはハッと目を覚ました。

「レーナ、起きて。……レーナ!」

 目を開けると、同部屋で共に暮らしているジェシカの顔が視界いっぱいに広がった。
 上半身を起こし、荒く息を吐き出す。嫌な夢を見たせいで、心臓が激しく鼓動していて痛いくらいだ。

「またうなされてたよ」

 ここは、王宮の敷地の中でも一番はずれにある使用人たちが住む一角。
 のそのそとベッドから降りて、いつものメイド服に袖を通す。額には冷や汗が浮いていた。

 変な夢を見たのだ。高貴な男性が、毒を盛られたワインを飲んで床へ倒れ込んでいた。
 だけど、それが誰なのかわからない。

「大丈夫? 顔色が悪いけど……」

 ジェシカが心配そうに顔を覗き込む。
 レーナは笑みをたたえつつ、ふるふると首を横に振ってブロンドの長い髪を後ろでひとつに束ねた。

「夢を見たの。場所はこの王宮の中だった」
「内容は? どんな夢だったの?」
「それが……頭の中で途切れ途切れになってて、よくわからないの」

 レーナが見る夢は、次々とシーンが切り替わる短い映像の継ぎはぎのようなもの。
 しっかりと場面が繋がっていないため、聞かれてもうまく説明できなくてしばし考え込んだ。
 誰かが毒を盛られて倒れたなんて、さすがに言うのははばかられたから。

 調理場に積み上げられたお皿、湯気の立つ料理、ていねいに磨かれたグラス、ワインボトル、せわしなく働く使用人たち。
 夢では、そんな光景が断片的に流れていた。
 それと……青い小瓶が置いてあった。あれはなんだったのだろう?