体育祭まで、あと三週間。
体育委員会は、だんだん忙しくなってきていた。
「明日までに、バトンの数確認しといて」
「借り物競争のカードも作らないと」
準備室の中は、放課後になるといつもバタバタしている。
その日も、委員会が終わったあとだった。
「じゃあ今日はここまで」
橘先輩が言うと、みんなが一斉に立ち上がる。
「お疲れー!」
「また明日ー!」
次々に帰っていく。
私も帰ろうとした、そのとき。
「藤沢」
振り返る。
橘先輩だった。
「悪いんだけど、少し手伝ってもらっていい?」
「え?」
「体育館のラインテープ貼り直さないといけない」
体育館を見る。
広い。
「……二人でですか?」
「うん」
ちょっとだけ不安になる。
でも――
「いいですよ」
私は頷いた。
体育館の中は、もう誰もいなかった。
窓から入る夕方の光だけが、床に広がっている。
「ここから貼る」
先輩がテープを渡してくる。
「まっすぐ引っ張って」
「はい」
床にしゃがみながら、テープを伸ばす。
体育館は思ったより静かだった。
テープの音だけが、静かに響く。
しばらくして。
「藤沢」
「はい?」
「ちょっと待って」
顔を上げる。
先輩が近づいてくる。
そして――
私の手の上から、テープを押さえた。
「ここ、曲がってる」
距離が、近い。
すぐ目の前に先輩の顔がある。
心臓が、急にうるさくなる。
「……あ」
声が小さくなる。
先輩は気づいていないみたいで、普通にテープを直している。
「これでまっすぐ」
「すみません…」
「いや、最初はみんな曲がる」
先輩は笑った。
その笑い方が、少し優しかった。
また作業に戻る。
でも、さっきの距離が頭から離れない。
(近かった…)
自分でも分かるくらい、顔が熱い。
そのとき。
「藤沢」
また呼ばれる。
「はい?」
「なんか顔赤いけど」
一瞬止まる。
「えっ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
慌てて言うと、先輩は少し笑った。
「無理すんなよ」
その言葉が、胸に残る。
体育館の床に貼られていく白いライン。
夕焼けの光。
静かな空間。
二人きりの時間。
気づいたときには、もうはっきりしていた。
私はきっと――
橘颯斗先輩が好きになり始めている。
でも。
この恋が、
後からこんな形で苦しくなるなんて。
まだ、知らなかった。
体育委員会は、だんだん忙しくなってきていた。
「明日までに、バトンの数確認しといて」
「借り物競争のカードも作らないと」
準備室の中は、放課後になるといつもバタバタしている。
その日も、委員会が終わったあとだった。
「じゃあ今日はここまで」
橘先輩が言うと、みんなが一斉に立ち上がる。
「お疲れー!」
「また明日ー!」
次々に帰っていく。
私も帰ろうとした、そのとき。
「藤沢」
振り返る。
橘先輩だった。
「悪いんだけど、少し手伝ってもらっていい?」
「え?」
「体育館のラインテープ貼り直さないといけない」
体育館を見る。
広い。
「……二人でですか?」
「うん」
ちょっとだけ不安になる。
でも――
「いいですよ」
私は頷いた。
体育館の中は、もう誰もいなかった。
窓から入る夕方の光だけが、床に広がっている。
「ここから貼る」
先輩がテープを渡してくる。
「まっすぐ引っ張って」
「はい」
床にしゃがみながら、テープを伸ばす。
体育館は思ったより静かだった。
テープの音だけが、静かに響く。
しばらくして。
「藤沢」
「はい?」
「ちょっと待って」
顔を上げる。
先輩が近づいてくる。
そして――
私の手の上から、テープを押さえた。
「ここ、曲がってる」
距離が、近い。
すぐ目の前に先輩の顔がある。
心臓が、急にうるさくなる。
「……あ」
声が小さくなる。
先輩は気づいていないみたいで、普通にテープを直している。
「これでまっすぐ」
「すみません…」
「いや、最初はみんな曲がる」
先輩は笑った。
その笑い方が、少し優しかった。
また作業に戻る。
でも、さっきの距離が頭から離れない。
(近かった…)
自分でも分かるくらい、顔が熱い。
そのとき。
「藤沢」
また呼ばれる。
「はい?」
「なんか顔赤いけど」
一瞬止まる。
「えっ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
慌てて言うと、先輩は少し笑った。
「無理すんなよ」
その言葉が、胸に残る。
体育館の床に貼られていく白いライン。
夕焼けの光。
静かな空間。
二人きりの時間。
気づいたときには、もうはっきりしていた。
私はきっと――
橘颯斗先輩が好きになり始めている。
でも。
この恋が、
後からこんな形で苦しくなるなんて。
まだ、知らなかった。


