エリザベートがヒストリアに親切だったのは、父親の振る舞いの意図をよく理解していたからだ。
爵位の低い父親が権力欲しさに母親と結婚したこと、成人すればフランドール家の女侯爵になる自分が父にとって被後見人であるから、面倒を見てもらうため媚びていること。その全てを僅か三つの違いしかない姉は心得ており、きっと恐れてもいたのだ。
エリザベートはドレスを買ってもらえないヒストリアのために、父親に買い与えられたドレスをヒストリアの身丈に合うよう仕立て直させてくれていた。贈り物のアクセサリーや宝石も、いつか必要になるかもしれないからとヒストリアに分け与えてくれた。
おそらくエリザベートにとってヒストリアは保護対象だったのだ。
子供ながらにいつだって妹を守ろうと手を差し伸べていた。
その行為に父親が怒ることはなかった。なぜなら気付いていなかったのだ。
父親はただ、エリザベートを甘やかしているという事実を積み重ね満足し、母が鬼籍に入ってからは愛人を囲いよく家を出ることがあった。
この歪な家庭環境で乳幼児期を過ごしたヒストリアだが、心を通わせることが出来る家族である姉に懐いており、内気だが素直な少女だった。
特に読書と歌を好み、使用人の間では天使の歌声と称され、姉のエリザベートは時間を見つけてはヒストリアの歌に合わせハープを奏でるなどして二人の間には確かな愛があった。
しかしこの姉妹の絆は、ヒストリアが五歳の誕生日を迎えたその日を境に壊れていった。
