冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

「アリア!足元の鉄でヒストリアの喉を裂け!」

瞬間、アリアは固まり瞳が曇る。
やはりシリウスの洗脳への抵抗が最大値、アリアのように何年も支配した対象は抵抗出来ないのだ。

アリアはすぐさま鉄を拾った。
尖ったそれを至近距離で振り上げる姿にロイドは確信した。

ヒストリアが祈る間はなく、ロイドは口角を持ち上げた。
そして予測通り、アリアの攻撃は阻まれその身体が風圧で後ろへと弾き飛ばされる。

シリウスはロイドの攻撃よりもヒストリアを守る方を優先したのだ。

「分かったぞ……」

大聖女だからか知らないが、シリウスにとってヒストリアは特別なのだろう。
洗脳を遮断する仕掛けを持っていれば当然狙われる。

そんな危険なものをヒストリアに預けるわけがない。持っているならシリウス自身だ。

そもそもヒストリアの祈りがない時点で免れていたことから察するに今も展開されているはず。
そして魔法は多少の差があれど光を放つ。

対抗するなら聖女の声か、いや、音は聞こえない。
それに相当するものか……。

無音で、そして相殺を可能なとする仕掛け。
それがあるとすれば音を拾う場所……ーー耳か。

ロイドはシリウスに向けて銃口で捉える。

ーーあれだ。
そしてすぐさま撃ち放った。

銃声が響き、耳許で淡く光っていた石が砕け、血液が飛散する。

「ルーメンっ!!」

ヒストリアが叫んだ。

「っ……まだ大丈夫だ、ヒストリア……祈れ……」

出血し耳を抑えるシリウスにロイドは嬉々として告げる。

「シリウス、ヒストリアを拘束しろ」

シリウスは目を瞠ったあと痛みか嫌悪故か顔を歪め、ロイドを睨みつけた。

そして何か口走る。
だがそれが何かは分からない。
しかし今はどうでも良い。

今度は確実に効いている。
その確信があるのだから。

瞬きを繰り返し呼吸を荒げる姿は既視感がある。最初にアリアとユリアンを捕らえた時と同じもの。
あの二人よりも抵抗は強いが、所詮は魔法使いだ。

抗えるはずがない。

ヒストリアは祈り始めていたが、ロイドはすぐさまアリアに命じた。

「アリア、僕の妹を締め上げろ」

絶対に解かせてなるものか。
首を締め上げられ、ヒストリアの苦しげな姿が映る。

これでいい。
誰にも邪魔はさせない。

洗脳を受けたアリアの拘束によってヒストリアの祈りがシリウスに届くことはない。

しかし未だ動き出そうとしないシリウスにロイドはもう一度言い聞かせた。

「シリウス。いいか、僕がお前の主人だ」

シリウスは俯き黙り込む。
ロイドは片眉を上げ見下ろし視線を眇めた。

まだ抵抗するつもりなのか。

もう一度命令しようとした刹那、視線が上がった。
その瞳からは完全に光は落ちている。

ロイドは唇を薄く開き喜色を孕む吐息を溢す。

「もういいアリア、こいつにヒストリアを拘束させる。お前は眠っていろ」

飽きた人形をしまうようにアリアに命令し、代わりに倒れて咽せるヒストリアの前にシリウスの影が落ちる。
最高だ。
ヒストリアの身体に錆びた鉄が針金のように変形し巻き付いてゆく。

その姿に肌が震え、ある種の達成感すら覚えた。
ロイドは手中に収めた下僕に命じた。

「シリウス、お前の魔法で僕の力を増幅しろ」

言えば、シリウスの手に灯った光がロイドを包む。

「これは……」

まるで制約の縛りを断ち切ったような、そんな清々しい感覚に血肉が湧き立った。

「ーー残念だったなヒストリア。シリウスは僕のものだ。お前はせいぜいここで泣き喚いていればいい……今までのようにな」

とはいえ、口元まで巻きついている。
口を開けば錆で肌を傷つけ痛みが伴うだろう。

か弱い元ご令嬢のヒストリアが顔を傷つけてまで抵抗するわけがない。
喚くことも歌うことも出来ないだろう。

「ーーあぁ、間違っても解除しようなんて思うなよ?洗脳を解こうとした時、こいつは自害する」