冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

――――そしてセシルが死んでから幾年か経ち、ラキュウス辺境伯からある話を聞いた。

「大聖女の印を持つ令嬢が追放……?」

シルドバーニュの王宮で現大聖女のイクシスの毒殺未遂が起き、その主犯がヒストリア・フランドールという令嬢であると判明し断罪されたという。

その令嬢は次期大聖女と謳われる聖印の持ち主。
聖力に期待したシリウスだったが、ラキュウスの声は冷えていた。

「だが印は剥奪されている。性格にも難ありだ。使いものにはならないだろう」

追放先としてラキュウスの統治するルキリュ領に受け入れてもらいたいという打診が王太子からあったため、この話が浮上したようだが、シリウスは冷静に訊ねた。

「セシルの代わりにはならないと?」

「相手は傲慢で我儘な元ご令嬢だ。毒殺未遂の主犯というのが本当ならば性根は腐っている。協力させるなど期待は薄いだろう」

「……つまりラキュウス辺境伯ご自身で保護する気はないのですね」

ディート地区の辺境に移送をさせたという言葉にシリウスは顎を引いて考えた。

王太子は処分に懐疑的な様子だという。
つまり単純に国と一線を置いているラキュウスの元なら無体を働かれないと考えているのだろう。

その行為に一抹の期待を抱いたシリウスだったが、当のラキュウスは歯切れが悪い。
わざわざ呼びつけてまでこの話をしたのは、自分と同じように少し期待をしているのではないだろうか。
だが確信がない以上、面倒を抱える気はないといったところか。

するとやはり、ラキュウスは重々しく口を開き告げた。

「――……あとの事はお前に任せる。見捨てるも生かすも好きにしろ。ただし罪人であることは忘れるな」




ラキュウス辺境伯の命を受け、ヒストリアと出会った。
ヒストリアは何かを求めるように瘴気溜まりまで歩き、身投げしようとしていた。

瘴気溜まりで死なれては面倒なので身投げは阻止すると罵声を浴びせられたが、ヒストリアは酷く憔悴していていた。とても正常な判断が出来る様子ではなかった。

だが、そんな姿でもヒストリアは大層な口振りだった。

「――だったら水をよこしなさいよ」

罵声といい、この一言といい、確かにこれは傲慢な気配が漂っている。
とてもセシルとは似つかわしくない。

だが、全てを失った人間とは、その後に与えられる希望に対し執着する。
シリウス自身が、そうであったように。

他人の夢を叶えたいと突き動かす原動力を、上手くいけばヒストリアにも同じように植え付けられるのではないか。
ヒストリアは気を失っているのにまだ聖力に反応がある。

他人の感情の機微に疎いシリウスだが、検証してみる余地はあると考えた。
そうして細い身体を担ぎ上げシリウスは結界を目指したのだった。




シリウスはセシルの真似をした。
微かにでも自分の心が動いた出来事を模倣したのだ。

すると顔つきは芯のあるものへ変わり、ヒストリアは生気を取り戻し自分を慕うようになった。
実際、ヒストリアには投資価値があるのだから嘘は言っていない。

心の底から価値があると考えている。
手段を間違えなければ、磨けば光る原石なのだ。

だがその姿を前に、時折複雑な感情が沸き立つようになったのはいつからだろう。

変わることを願ったのは自分だが、傲慢な態度を軟化させたヒストリアは、矜持をそのままに前を見据え、かつての師であるセシルに随分と似てきている。

違うのは互いの立場故か……自身の言葉一つでころころ変わるその表情だ。

快も不快もはっきりと顔に出ており、まだ別の引き出しがあるのではと時折考えさせられる。

いつの間にかそれを楽しいと思い、そして意外にもヒストリアはしてやられてばかりでは無く、歳の離れた少女なりの背伸びした言動がルーメンの心を静かに揺らしていた。

自分の庇護下に置きたいと私的な感情が芽生え、それは着実に育ってゆく。
王太子がヒストリアに再縁の打診をした時には不快な感情さえ覚えた。


今や平坦な心を大きく揺さぶる唯一の存在。
守るためにも敗北は許されない。

ロイドを倒し、シルドバーニュの闇を日の元に晒すのだ。
そしてヒストリアの冤罪を明るみにして、彼女の価値を証明する。

――――ヒストリアから希望を奪わせるわけにはいかない。