冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

真名を呼ばれ、服従を命じるロイドの言葉に、ルーメンの身体に痺れが走った。
瞬間、攻撃の手は止まったが、これはまだ想定内だ。

ある程度は対策の効果があった。ルーメンはそう考えていた。

ロイドに対し初手の洗脳を阻むことは何より重要。
いくらヒストリアの祈りで解除できるとはいえ後手に周ることは避けたかった。

上機嫌で支配欲の凄まじい言葉を紡ぐロイドを睨みつけながら、再び錆びた鉄を浮上させ、間髪入れずロイドを貫く。

「な゛っ、……何故だ!?」

首元を狙ったが、外れて肩に突き刺さる。
対策はあくまで推定の域を出ない未検証のもの。

拮抗しているか、やはり所詮は本物の力に及ばないのかもしれない。



――――兵士を蔦で拘束する前、ルーメンは王宮内の神殿を前にヒストリアに話していた。

「――ロイドはユリアンから俺の真名を引き出していた。興味を持たれているのは間違いない。奴はおそらく特定の範囲にさえ俺達を誘い込めばいつでも洗脳出来ると考えているだろうな」

ロイドを捕縛するにはまず洗脳範囲に入らないこと、初手に遅れを取らないことに尽きる。

「……待って、……本当の名前って……ルーメンは偽名なの?」

ヒストリアは深い蒼の瞳を瞠ったあと、その視線を外した。

黙っていた事に何らかの感情を抱いているのだろう。

名を明かす必要性がこれまでなかったが故に過去の話題を避けていたが、ルーメンはヒストリアの手を取り唯一の懸念を吐き出した。

「……あぁ。君にも知っていて欲しい。ロイドがどこまで想定しているか分からないが、もしもその名を口にした時は、君は俺がロイドの力を増幅させる前に必ず洗脳を解いてくれ」

拡張魔法で聖力を増幅させたように、聖者の力も同じことが出来る可能性にロイドが気付いていれば厄介なことになる。

だからこそ、今は名を明かすことがヒストリアを守ることに繋がるだろう。

「……俺の本当の名は、シリウス・オッド・アルタイル。隣国アルタイルの元王族だ」