おじょうさん、おかえんなさい

 ――おかえんなさい

 出迎えられて、奈江は受け入れてもらえたのかなと思った。
 涼太の家に初めて遊びに来て緊張していたから、そんな言葉をかけられてうれしくもあったけど、まとわりつくようなどんよりとした空気にたじろいだ。

「オレの部屋、2階だから」

 涼太に案内されてついていく。
 無遠慮な視線を感じた。なんだか監視されているようで落ち着かない。
 でも、話しには聞いていたので驚かなかった。
 奈江は『見える』たちだった。
 涼太は幼いころに母を亡くしている。
 息子が恋人らしき女の子を連れてきたのだから、ピリつくのも無理はない。むしろ頻繁にあることじゃないようだと喜ぶべきだろう。

 涼太は、この家にいると、母親がずっとそばにいるといっていた。
 自分はなにも感じないけど、母はいるのだと。
 なにかを感じていたのは涼太の兄の方だった。

 居間で兄と父が話していたのをたまたま耳にしたという。
 兄は母が亡くなってからというもの、塞ぎ込んで学校へも行かず、自室にこもることが多かったらしいのだ。
 家にいる時間が長くなった兄は、この家で妙な物音がするとか怪奇現象が起こると言いだし、除霊をしようという話しになっていた。

 でも、この家で霊が出るとしたら母しかいない。
 そう思った涼太はそれはいやだ。お母さんを除霊しないでと泣いてお願いした。
 母親が悪霊になっているかもしれないなんて、考えたくもないことだ。
 兄はそれから学校へ行くようになったが、怪奇現象がどうなったか、涼太もたずねていない。
 そういうこともあって、高校を出た後すぐに就職した兄はこの家に寄りつかず、涼太とも疎遠であるようだった。

 奈江は付き添われるようにして涼太の部屋に入った。
 いろんな話をしながら、奈江だけが気まずさを覚えていた。
 全部聞かれている。
 涼太はアルバムまで取り出して、どんどん過去を遡っていく。

 そして、生前の母親の写真に行き着いた。
 目も鼻も全体的に丸い顔の女性だった。
 この人が涼太の母親――

 だとするなら、隣に座ってアルバムをのぞき込んでいるこの禍々しい女は誰なのだろう。

 ――おかえんなさい

 最初にかけられた言葉は、「帰れ」と追い払う意味であったらしい。
 家にいるのは母の霊だと信じて疑わない涼太になんと言えばいいのかわからなかった。