午前の座学は、巻物や星図を前に座っての講義だった。
賀茂先生の声は低く落ち着いていて、でも一言一言が重みを持っている。
晴明くんは隣で筆を手に、熱心に書き写していた。
そして私はというと、
(駄目だ、全く理解できない.....!)
生まれて十四年、陰陽道のことを全く知らなかった訳ではない。
尼寺で雑用をしながら独学で文字を覚え、父が借りてそのまま放置した本という本を読み漁ったりはしていたのだが.....なにせ私が覚えているのは基礎の基礎だ。応用なんかできっこない。
私はじっと巻物を睨み、頭の中で言葉と記号を整理しようとする。
(くそ……何をどう結びつければ良いのか全く分からない……!)
隣の晴明くんは、淡々と筆を走らせながらも、時折こちらをちらりと見る。
「大丈夫....じゃなさそうだね」
小さな声で囁かれ、彼の筆先を真似てみると、ほんの少しだけ理解の糸口が見えた気がする。
一方で、周りの子達はというと……
誰かがこっそり持ち込んだ絵巻物に忍び笑い、数人でコソコソ覗き込んでいる者もいれば、急に言い争いを始める者もいて。
真面目に講義を聞いている者は、私と晴明くんを含めても五人ほどしかいなかった。
「いつもみんなこんな感じなの?」
「そうだよ。もうしばらくすれば、きっと誰か吊るされるね」
その時は、晴明くんの『吊るされる』という言葉の意味を理解できなかった。
しかし数分後――言葉の意味が体感として理解できることになる。
さっきまで言い争っていた久我くんともう一人の子が、縄で縛られ、天井から吊るされていたのだ。
「久我は問題児だからね。絵巻物を持ち込んだのも彼だろうね」
晴明くんがそう言いながら、どこで拾ったのか分からない木の枝で、吊るされている久我くん達をえいえいとつつき始める。
(せ、晴明くんって真面目かと思ってたけど....かなり変人だ......!)
吊るされた二人がぶらぶら揺れる様子を眺めながら、私は心の中で彼らに向かい合掌した。
「ったく、晴明のせいで恥かいたー」
「僕は何もしてないよ。久我が真面目に聞かなかったからだろう?」
「げー、正論....」
回廊を歩きながら、一緒に歩いている晴明くんと久我くんの話に耳を傾ける。
「そうだ、道満も賭け事やるか?今、晴明のことでちょっとした賭けが流行ってるんだよ」
「賭け?」
「晴明は女のどこを見るか」
「久我、後で僕の修行に付き合ってよ」
ニコリとした笑みを浮かべながら逃げ道を塞ぐように久我くんに詰め寄る晴明くん。
しかし、その目は笑っていなかった。
「え、絶対無理」
「.......ほら、逃げても無駄だよ」
晴明くんは静かに、しかし確実に距離を詰める。
「お前、いつも容赦ねぇじゃねぇか!生きて帰れる予感がしねぇんだけどー」
そこで久我くんは私をチラッと見てから、勢いよく指差した。
「道満、俺の代わりに生贄になってくれ!こいつの修行に付き合わされるのはもう懲り懲りだ!」
私は久我くんの言葉に思わず固まった。
(生贄……だと……?)
「道満?」
晴明くんの瞳が、ゆっくりと私の方を見る。
「いや、いやいや!無理無理!何もしてないし!」
慌てて後ずさる私を、晴明くんはじっと見つめたまま動かない。
「友達を助けると思って、な!」
「久我くんが余計なこと言って晴明くんを怒らせたのが事の発端だと思う!」
「そんな冷たいこと言うなよぉ〜!無事に帰ってきたら焼き栗やるからよ!!」
焼き栗は正直欲しい。
でも、久我くんの様子を見るに、晴明くんの修行というのはそうとう恐ろしいものらしい。
晴明くんはニコニコと笑顔のまま、私に一歩近づく。
「よし、行こうか」
そして、いきなり腕を掴まれたかと思うと、何処かに歩き出した。
私は驚きと恐怖で体が固まったまま、ただ晴明くんに引きずられていく。
露店が並ぶ市をぐんぐん通り抜け、やってきたのは都の裏側にある山。
(山......?)
山の中腹に差し掛かると、晴明くんは立ち止まり、振り返った。
「実は君に色々聞きたいことがあったんだよね」
切り株に腰掛けながら私を見上げた。
嫌な予感がして半歩下がる。
「き、聞きたいこと....?」
まさか、私が女だとバレたのだろうか.....。
「例えば、川魚の捕り方とか」
「....ん?」
「近くに川があってね、そこに川魚を捕りに行かなきゃいけなくて.....でも、今まで獲ったことないし」
晴明くん曰く、今まで木の実を採ったり川魚を捕まえたことがないので、私に教えてほしいみたいで....。
「川魚......捕まえ方、って.....私に......?」
声が震える。必死で平静を装おうとするが、手のひらは汗で湿っている。
川辺に着くと、清らかな水が浅瀬で光を反射して揺れていた。
私は袴の裾を膝までまくり上げ、手頃な石を拾う。
流れが緩い場所に置くと、魚が集まって来やすいのだ。
棒で刺せたら良かったのだが、中々刺さってくれない。
もどかしくなって、諦めて素手で獲った。
「よっしゃ、獲った!」
アユを天高く掲げると、木陰で座っていた晴明くんが拍手した。
いや、何で晴明くんは木陰にいるの!?
「な、なに……その位置は……!?」
木陰からじっとこちらを見つめる晴明くんは、木の棒も持たず、完全に観察者の顔をしている。
これじゃまるで、魚を獲ってはしゃいでいる子供を見守る大人みたいじゃないか!
しかも晴明くんは応援なのかよく分からないが、「わー、すごーい」と棒読みで言ってくる。
私は再び石を置き、流れに沿って魚を誘導する。すると、小さな波紋に合わせて魚がピチピチと跳ねた。
「よし、その調子だね。......うん、見ててよかった」
棒読み気味の「見ててよかった」に、思わずツッコミたくなる。
(何で私がこんなことに......)
魚を獲り終えると、川辺の水滴をぬぐいながら、晴明くんの元へ歩み寄る。
「お疲れ様」
「私しか獲ってない....」
「まぁまぁ。それより、もう一つ聞きたいことがあったんだ」
どうせ、晴明くんのことだから魚の次は食べられるキノコを教えてほしいとか、そんな感じだろう。
「女の子だよね?」
「......え、な、何で.......それを......?」
私は慌てて言葉を探す。声が震える。
晴明くんは首を少し傾げ、柔らかい声で続けた。
「いや、なんとなく。色々話してると、そうかなって」
(さて、どうしようか。誤魔化す?....駄目だ、晴明くんを騙せる気がしない.......)
出会って二日しか経っていないが、なんとなく彼の性格が分かったような気がした。
騙そうと思って、騙せる相手じゃない。
「あぁ、安心して。何か事情があるんだろう?深く聞かないよ。僕はただ、事実確認がしたいだけだよ」
その言葉に、安堵のため息をつく。
私は力を抜き、肩の力をゆっくりと下ろした。
「......そうだよ」
小さく頷くと、晴明くんは満足そうに微笑み、立ち上がった。
「戻ろうか。魚は......みんなで食べようね」
「よしっ!」
「ちょろいな〜」
はははと軽口を叩く晴明くん。
私は思わず顔をしかめた。
「ちょろくない!」
思い切り言い返すと、晴明くんは少しだけ目を丸くした。
けれど次の瞬間、くすっと笑う。
「うん、怒ると分かりやすいね」
「怒ってない!」
「ほら、また」
完全にからかわれている。
(くっ......この人、絶対楽しんでる........!)
晴明くんは何でもない顔で山道を下りていく。
私は半歩遅れてその後ろを歩いた。
木々の間を抜ける風が、さっきまで川に浸けていた足をひんやりと撫でる。
(それにしても)
私はちらりと晴明くんの背中を見る。
(女って分かっても、ほんとに何も言わないんだな.......)
普通なら、もっと騒がれてもおかしくない。
陰陽寮に女が紛れているなんて、問題どころじゃないはずだ。
それなのに——
「ねえ」
晴明くんが突然声をかけてきた。
「な、なに?」
「さっきの魚、美味しそうだったね」
「........話それ!?」
思わず声が裏返ってしまう。
晴明くんはくすくす笑った。
(この人、本当に魚の方が大事なんじゃ......いや、その方が有り難いけど)
心の中で呆れていると、やがて木々が途切れ、都の外れの市が見えてきた。
露店の声や、人のざわめきが風に乗って届く。
その時——
「おーい!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り向くと、道の向こうから久我くんが走ってくる。
「生きてたか!」
「僕が死ぬと思ってたの?」
「いや、お前じゃなくて道満に言ったんだけど」
久我くんは私を見て、ぱっと顔を輝かせた。
「おお、道満!無事だったか?」
「誰のせいだと思ってるの!?」
私が怒鳴ると、久我くんは「わはは!」と笑った。
「で?修行って何やらされたんだ?」
久我くんの問いに、晴明くんが静かに答える。
「道満に魚の捕り方を教えて貰ったんだよ」
「は?」
久我くんはぽかんと口を開けた。
私は手に持っていたアユを持ち上げる。
「これ」
一瞬の沈黙。
そして——
「........俺も行けば良かった!!」
久我くんは頭を抱えたまま、その場にしゃがみ込んだ。
「何でだよ!俺の時はあんな……あんな……!」
言葉を詰まらせながら、恨めしそうに晴明くんを指差す。
「晴明の出した式神と対決させられて、勝つまで終わらなくて.......犬の遠吠えが聞こえたから終わってくれたけど......。あれがなかったら俺、今も式神と対決してた.......」
「あれでも一番弱い式神だったんだけどね........」
晴明くんは涼しい顔で言った。
「お前にとってはな!?」
賀茂先生の声は低く落ち着いていて、でも一言一言が重みを持っている。
晴明くんは隣で筆を手に、熱心に書き写していた。
そして私はというと、
(駄目だ、全く理解できない.....!)
生まれて十四年、陰陽道のことを全く知らなかった訳ではない。
尼寺で雑用をしながら独学で文字を覚え、父が借りてそのまま放置した本という本を読み漁ったりはしていたのだが.....なにせ私が覚えているのは基礎の基礎だ。応用なんかできっこない。
私はじっと巻物を睨み、頭の中で言葉と記号を整理しようとする。
(くそ……何をどう結びつければ良いのか全く分からない……!)
隣の晴明くんは、淡々と筆を走らせながらも、時折こちらをちらりと見る。
「大丈夫....じゃなさそうだね」
小さな声で囁かれ、彼の筆先を真似てみると、ほんの少しだけ理解の糸口が見えた気がする。
一方で、周りの子達はというと……
誰かがこっそり持ち込んだ絵巻物に忍び笑い、数人でコソコソ覗き込んでいる者もいれば、急に言い争いを始める者もいて。
真面目に講義を聞いている者は、私と晴明くんを含めても五人ほどしかいなかった。
「いつもみんなこんな感じなの?」
「そうだよ。もうしばらくすれば、きっと誰か吊るされるね」
その時は、晴明くんの『吊るされる』という言葉の意味を理解できなかった。
しかし数分後――言葉の意味が体感として理解できることになる。
さっきまで言い争っていた久我くんともう一人の子が、縄で縛られ、天井から吊るされていたのだ。
「久我は問題児だからね。絵巻物を持ち込んだのも彼だろうね」
晴明くんがそう言いながら、どこで拾ったのか分からない木の枝で、吊るされている久我くん達をえいえいとつつき始める。
(せ、晴明くんって真面目かと思ってたけど....かなり変人だ......!)
吊るされた二人がぶらぶら揺れる様子を眺めながら、私は心の中で彼らに向かい合掌した。
「ったく、晴明のせいで恥かいたー」
「僕は何もしてないよ。久我が真面目に聞かなかったからだろう?」
「げー、正論....」
回廊を歩きながら、一緒に歩いている晴明くんと久我くんの話に耳を傾ける。
「そうだ、道満も賭け事やるか?今、晴明のことでちょっとした賭けが流行ってるんだよ」
「賭け?」
「晴明は女のどこを見るか」
「久我、後で僕の修行に付き合ってよ」
ニコリとした笑みを浮かべながら逃げ道を塞ぐように久我くんに詰め寄る晴明くん。
しかし、その目は笑っていなかった。
「え、絶対無理」
「.......ほら、逃げても無駄だよ」
晴明くんは静かに、しかし確実に距離を詰める。
「お前、いつも容赦ねぇじゃねぇか!生きて帰れる予感がしねぇんだけどー」
そこで久我くんは私をチラッと見てから、勢いよく指差した。
「道満、俺の代わりに生贄になってくれ!こいつの修行に付き合わされるのはもう懲り懲りだ!」
私は久我くんの言葉に思わず固まった。
(生贄……だと……?)
「道満?」
晴明くんの瞳が、ゆっくりと私の方を見る。
「いや、いやいや!無理無理!何もしてないし!」
慌てて後ずさる私を、晴明くんはじっと見つめたまま動かない。
「友達を助けると思って、な!」
「久我くんが余計なこと言って晴明くんを怒らせたのが事の発端だと思う!」
「そんな冷たいこと言うなよぉ〜!無事に帰ってきたら焼き栗やるからよ!!」
焼き栗は正直欲しい。
でも、久我くんの様子を見るに、晴明くんの修行というのはそうとう恐ろしいものらしい。
晴明くんはニコニコと笑顔のまま、私に一歩近づく。
「よし、行こうか」
そして、いきなり腕を掴まれたかと思うと、何処かに歩き出した。
私は驚きと恐怖で体が固まったまま、ただ晴明くんに引きずられていく。
露店が並ぶ市をぐんぐん通り抜け、やってきたのは都の裏側にある山。
(山......?)
山の中腹に差し掛かると、晴明くんは立ち止まり、振り返った。
「実は君に色々聞きたいことがあったんだよね」
切り株に腰掛けながら私を見上げた。
嫌な予感がして半歩下がる。
「き、聞きたいこと....?」
まさか、私が女だとバレたのだろうか.....。
「例えば、川魚の捕り方とか」
「....ん?」
「近くに川があってね、そこに川魚を捕りに行かなきゃいけなくて.....でも、今まで獲ったことないし」
晴明くん曰く、今まで木の実を採ったり川魚を捕まえたことがないので、私に教えてほしいみたいで....。
「川魚......捕まえ方、って.....私に......?」
声が震える。必死で平静を装おうとするが、手のひらは汗で湿っている。
川辺に着くと、清らかな水が浅瀬で光を反射して揺れていた。
私は袴の裾を膝までまくり上げ、手頃な石を拾う。
流れが緩い場所に置くと、魚が集まって来やすいのだ。
棒で刺せたら良かったのだが、中々刺さってくれない。
もどかしくなって、諦めて素手で獲った。
「よっしゃ、獲った!」
アユを天高く掲げると、木陰で座っていた晴明くんが拍手した。
いや、何で晴明くんは木陰にいるの!?
「な、なに……その位置は……!?」
木陰からじっとこちらを見つめる晴明くんは、木の棒も持たず、完全に観察者の顔をしている。
これじゃまるで、魚を獲ってはしゃいでいる子供を見守る大人みたいじゃないか!
しかも晴明くんは応援なのかよく分からないが、「わー、すごーい」と棒読みで言ってくる。
私は再び石を置き、流れに沿って魚を誘導する。すると、小さな波紋に合わせて魚がピチピチと跳ねた。
「よし、その調子だね。......うん、見ててよかった」
棒読み気味の「見ててよかった」に、思わずツッコミたくなる。
(何で私がこんなことに......)
魚を獲り終えると、川辺の水滴をぬぐいながら、晴明くんの元へ歩み寄る。
「お疲れ様」
「私しか獲ってない....」
「まぁまぁ。それより、もう一つ聞きたいことがあったんだ」
どうせ、晴明くんのことだから魚の次は食べられるキノコを教えてほしいとか、そんな感じだろう。
「女の子だよね?」
「......え、な、何で.......それを......?」
私は慌てて言葉を探す。声が震える。
晴明くんは首を少し傾げ、柔らかい声で続けた。
「いや、なんとなく。色々話してると、そうかなって」
(さて、どうしようか。誤魔化す?....駄目だ、晴明くんを騙せる気がしない.......)
出会って二日しか経っていないが、なんとなく彼の性格が分かったような気がした。
騙そうと思って、騙せる相手じゃない。
「あぁ、安心して。何か事情があるんだろう?深く聞かないよ。僕はただ、事実確認がしたいだけだよ」
その言葉に、安堵のため息をつく。
私は力を抜き、肩の力をゆっくりと下ろした。
「......そうだよ」
小さく頷くと、晴明くんは満足そうに微笑み、立ち上がった。
「戻ろうか。魚は......みんなで食べようね」
「よしっ!」
「ちょろいな〜」
はははと軽口を叩く晴明くん。
私は思わず顔をしかめた。
「ちょろくない!」
思い切り言い返すと、晴明くんは少しだけ目を丸くした。
けれど次の瞬間、くすっと笑う。
「うん、怒ると分かりやすいね」
「怒ってない!」
「ほら、また」
完全にからかわれている。
(くっ......この人、絶対楽しんでる........!)
晴明くんは何でもない顔で山道を下りていく。
私は半歩遅れてその後ろを歩いた。
木々の間を抜ける風が、さっきまで川に浸けていた足をひんやりと撫でる。
(それにしても)
私はちらりと晴明くんの背中を見る。
(女って分かっても、ほんとに何も言わないんだな.......)
普通なら、もっと騒がれてもおかしくない。
陰陽寮に女が紛れているなんて、問題どころじゃないはずだ。
それなのに——
「ねえ」
晴明くんが突然声をかけてきた。
「な、なに?」
「さっきの魚、美味しそうだったね」
「........話それ!?」
思わず声が裏返ってしまう。
晴明くんはくすくす笑った。
(この人、本当に魚の方が大事なんじゃ......いや、その方が有り難いけど)
心の中で呆れていると、やがて木々が途切れ、都の外れの市が見えてきた。
露店の声や、人のざわめきが風に乗って届く。
その時——
「おーい!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り向くと、道の向こうから久我くんが走ってくる。
「生きてたか!」
「僕が死ぬと思ってたの?」
「いや、お前じゃなくて道満に言ったんだけど」
久我くんは私を見て、ぱっと顔を輝かせた。
「おお、道満!無事だったか?」
「誰のせいだと思ってるの!?」
私が怒鳴ると、久我くんは「わはは!」と笑った。
「で?修行って何やらされたんだ?」
久我くんの問いに、晴明くんが静かに答える。
「道満に魚の捕り方を教えて貰ったんだよ」
「は?」
久我くんはぽかんと口を開けた。
私は手に持っていたアユを持ち上げる。
「これ」
一瞬の沈黙。
そして——
「........俺も行けば良かった!!」
久我くんは頭を抱えたまま、その場にしゃがみ込んだ。
「何でだよ!俺の時はあんな……あんな……!」
言葉を詰まらせながら、恨めしそうに晴明くんを指差す。
「晴明の出した式神と対決させられて、勝つまで終わらなくて.......犬の遠吠えが聞こえたから終わってくれたけど......。あれがなかったら俺、今も式神と対決してた.......」
「あれでも一番弱い式神だったんだけどね........」
晴明くんは涼しい顔で言った。
「お前にとってはな!?」



