偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


お金のことは、確かにありがたい。でも、そういうことじゃなかった。

今の自分がどこまでできるか、知りたかった。

本物の緊張の中でブラシを走らせたら、どうなるのか。

怖い。でも、やってみたい。

ブラシを持つ右手が、じりりと熱くなるような気がした。

恐怖を少しずつ押しのけながら、やってみたい気持ちが、じわじわと大きくなっていく。

「……わかりました」

道具箱の取っ手をしっかり握り直して、顔を上げた。

「ただし、絶対に一回だけ。それと、もし途中でバレそうになったら、私は正直に話します。それでも、いいですか?」

真白さんが、ぱっと顔を輝かせた。

「ありがとう! きっと、絶対にうまくいくわ!」

そのあっけらかんとした笑顔を見て、私は小さく息をついた。

引き受けたのは、自分の意志だ。それでも──本当に大丈夫かな、と思わずにはいられなかった。

もしも私が『如月真白』として婚約者候補の彼と会ったら、どうなるんだろう。