「……自分が前に出なければ、傷つかないで済むから」
やっと、本音が口から出た。
「誰かのメイクをして、背中を押すことはできる。でも、自分が表に出て、失敗したら……と思うと、足が動かなくなるんだ」
「それは、怖いよね」
咲季が、私の震える手を包み込むように握った。
「あたし、陽葵のことずっと見てたよ。みずきちゃんも、芽依ちゃんも、みんな陽葵がいたから変われた。そういうことができる人が、どうして自分だけ怖がるの?」
「それは……」
「誰かになりきらなくていいんだよ。陽葵は陽葵のままでいいの」
その一言が、するりと耳の奥まで届いた。
完璧な身代わりじゃなくていい。私のままで、先輩の想いを繋げばいいんだ。
「……私、やってみる」
言葉にした瞬間、喉のあたりがどくんと鳴った。
怖い。でも、それ以上に、指先が「じりり」と熱くなっていた。
「陽葵、よく言った!」
咲季が笑顔で、ぎゅうっと私を抱きしめてくれた。
◇
部室に戻ると、部員たちはまだ話し合いを続けていた。
私は、ドアの前で立ち止まった。手のひらに汗がにじんでいる。一度だけ深呼吸をして、ドアに手をかけた。
「あの……私、やります。シンデレラ役、やらせてください」
部員たちが一斉にこちらを向いた。
「本当に!?」
「陽葵ちゃん、ありがとう!」
「良かった……!」
どよめきの中、芽依ちゃんが小走りで近づいてきた。
「結城先輩!」
「芽依ちゃん、明日のメイク手伝って。全部教えるから」
「はい!」
芽依ちゃんは力強く頷いた。
ぱっと明るくなった彼女の顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。



