偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「……自分が前に出なければ、傷つかないで済むから」

やっと、本音が口から出た。

「誰かのメイクをして、背中を押すことはできる。でも、自分が表に出て、失敗したら……と思うと、足が動かなくなるんだ」

「それは、怖いよね」

咲季が、私の震える手を包み込むように握った。

「あたし、陽葵のことずっと見てたよ。みずきちゃんも、芽依ちゃんも、みんな陽葵がいたから変われた。そういうことができる人が、どうして自分だけ怖がるの?」

「それは……」

「誰かになりきらなくていいんだよ。陽葵は陽葵のままでいいの」

その一言が、するりと耳の奥まで届いた。

完璧な身代わりじゃなくていい。私のままで、先輩の想いを繋げばいいんだ。

「……私、やってみる」

言葉にした瞬間、喉のあたりがどくんと鳴った。

怖い。でも、それ以上に、指先が「じりり」と熱くなっていた。

「陽葵、よく言った!」

咲季が笑顔で、ぎゅうっと私を抱きしめてくれた。



部室に戻ると、部員たちはまだ話し合いを続けていた。

私は、ドアの前で立ち止まった。手のひらに汗がにじんでいる。一度だけ深呼吸をして、ドアに手をかけた。

「あの……私、やります。シンデレラ役、やらせてください」

部員たちが一斉にこちらを向いた。

「本当に!?」

「陽葵ちゃん、ありがとう!」

「良かった……!」

どよめきの中、芽依ちゃんが小走りで近づいてきた。

「結城先輩!」

「芽依ちゃん、明日のメイク手伝って。全部教えるから」

「はい!」

芽依ちゃんは力強く頷いた。

ぱっと明るくなった彼女の顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。