偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


頭の中で、いろんな声がぶつかり合った。やりたい気持ちと、怖い気持ち。どちらも本物だった。でも今は、怖い気持ちのほうが大きかった。

「無理です……私、人前に立つの苦手だし……ごめんなさい」

うつむいたまま、私は部室を出た。

廊下の冷たい空気が頬に当たって、なぜか鼻の奥がつんとした。

廊下を歩きながら、さっきの部員たちの顔が頭から離れなかった。

泣きそうな継母役の子。頭を抱える部長。なのに、私は断ってしまった。

意気地なし。

でも……「できない」っていうのは、本当にそうだろうか。

メイクのタイミングを計るために、台本は読み込んでいた。セリフだって、ほとんど頭に入っている。

まだやってもいないのに、決めつけていいのだろうか。

芽依ちゃんが声を出せるようになったとき、あの子の一歩を見守りながら、私も感じるものがあったのに。

自分のことになると、どうしてこんなに足が止まるんだろう。

「陽葵、ちょっと待って!」

後ろから、咲季の声がした。

屋上へ続く踊り場。冷たい風が、窓の隙間から入ってくる。

咲季は私の前に立って、正面から目を合わせた。

「ねえ、陽葵。あなた、本当は舞台に立ちたいんじゃないの?」

「……別に、そういうわけじゃ……」

「嘘つかないでよ!」

咲季の声は、いつもより真剣だった。

「陽葵は、自分が前に出るのが怖いだけなんじゃない?」

私は、すぐに答えられなかった。

「ねえ、なんで?」