「無理です」
私は、食い気味に即答した。自分の声が、部室の静かな空気をピリリと震わせるのが分かった。
「そんな大事な顔合わせに他人が出るなんて……相手の方に失礼じゃないですか。それに、絶対バレますよ」
「バレないわ! 一度顔を見た程度だって、言ったでしょ!」
「それでも無理です。私、嘘をつくのが得意じゃないですし。第一、庶民の私が、お嬢様に見えるわけないですよ」
「私、本当に蒼空くんのことが好きなの!」
真白さんが、まっすぐ私を見た。
「辛いときも、孤独なときも、蒼空くんの歌が支えてくれた。3年間ずっと。だから今回のファンミ、どうしても行きたいの」
その声には、お嬢様らしい取り澄ました感じがまるでなかった。ただただ、本気だった。
真白さん、すごいな……推しのために、ここまで必死になれるなんて。
私は口を閉ざした。
如月真白さんを、私のメイクで作れるかもしれない。
演劇部の台本とは違う。失敗したら洒落にならない、本物の舞台だ。
「……もちろん、お礼はちゃんと払うわ。3万円、お支払いします」



