部室の隅に戻って、メイク道具を一つひとつ丁寧にしまいながら、こっそりスマホの画面を確認した。
SNSの匿名アカウント『@makeup_magic_H』のフォロワー数:52,347人。
先週より、1000人増えている。
まさか中学生の私が運営しているなんて、誰も知らないだろうな。
動画を上げ始めたのは、中学に入ってすぐの頃だった。
お母さんの仕事の都合で、転校ばかりだった小学生時代、私はずっと「新しい子」だった。
クラスに馴染む前に引っ越して、友達になりかけた頃に転校する。
それを繰り返すうちに、自分の好きなものを誰かに話すのが、少しずつ怖くなっていった。
だから、『メイクが好き』だと言えたのは、お母さんにだけだった。
そんなある日、お母さんが言った。
「陽葵、メイクで自分を変えてみたら? あなたには、人を変える力があると思うよ」
お母さんに言われるまま、私は半信半疑で少しだけ大人っぽいメイクをして学校に行った。
そしたら……。
「あれ? 結城さん、なんかいつもと違う。かわいいじゃん」
隣の席の女の子が、初めて私に話しかけてくれた。
たった一言が、じんわりと胸の奥までしみわたっていく。
メイクが、私と誰かをつないだ。その感覚が、胸の中でずっと光っていた。
だから、もっと誰かに見てほしくて動画投稿を始めた。
でも、自分の顔を出すのは怖かったから、手元と目元だけを映して。
コメント欄には、今日も『顔全体も見せて!』という声があふれているけれど。
結城陽葵じゃなく、今は私のメイクだけを見てくれればそれでいい。
自分自身が変わるのは──それは、また別の話。



