偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


どうしよう。今日はお腹が空いてたから? それとも、このケーキが特別だから?

何か「お嬢様っぽい理由」を言わなきゃ……!

「あ……えっと、その……」

「いえ。おいしそうに召し上がっているので、良かったと思いまして」

景斗さんはそれだけ言って、自分のカップに視線を落とした。だけど、横顔の口元がほんの少し上がっているのが見えた。

「……このケーキのクリーム、きれいに重なってますよね」

気づいたら、声が出ていた。

「重ねる順番を変えるだけで、見え方が全然違う。メイクの『コントゥアリング』と、同じ理屈だなって思って」

「コントゥアリング……?」

景斗さんが、不思議そうにその言葉をなぞった。

「顔に光と影を描いて、立体感を出す技法のことです。 お絵かきのとき、鼻の高さを出すために横に影を塗ったりしますよね? このケーキも、クリームの重なりで陰影ができていて、すごくきれいだなって」

「光と影、か……」

景斗さんがケーキをじっと見つめた。

「確かに。絵を描くときと、似てるかもしれない」

小さく呟き、笑いもせず真面目な顔で頷いている。そのギャップがおかしくて、私は必死に笑いをこらえた。

「あの……」

そのとき、景斗さんが声を低くして耳打ちしてきた。

親たちに聞こえないように、という感じで。