9月上旬。まだ夏の名残が漂う、夕暮れ時のことだった。
演劇部の部室には、西向きの窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。
「うわあ……! 陽葵ちゃん、これ本当にすごい!」
部室の鏡の前で、演劇部の3年の先輩──美紅先輩が、感嘆の声を上げた。
日本舞踊の家元の娘である美紅先輩は、凛とした佇まいに妖艶さが加わって、まるで別人のよう。
緩やかにウェーブした黒髪をかき上げる仕草一つとっても、育ちの良さがにじみ出ている。鏡の中にいるのは、いつもの先輩ではない。
頬のラインが引き締まり、目元には深みが増した、気品のある大人っぽい女性だ。
「まるで、本物の女優さん……!」
私──結城陽葵は、道具をケースに戻しながら、「ありがとうございます」と小さく答えた。
ノーズシャドウの入れ方一つで、鼻筋の高さが数ミリ変わる。その数ミリが、少女を大人に変える魔法になる。
私は、その瞬間がたまらなく好きだ。
「ねえねえ、これ撮っていい? あたしのインステに……」
親友の三浦咲季が、キラキラのストーンでデコられた最新のスマホを向けた。
レンズがこちらを向いた瞬間、私は反射的に手を上げた。
「ダメだよ! 顔は、映さないでね」
「ええ、なんでー?」
咲季が、丁寧に切りそろえられたボブヘアの毛先を指でくるりと回しながら、唇を尖らせる。



