偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「如月さん、また会いましょう」

顔合わせの終わりに、景斗さんはそう言った。

笑顔はない。まるで台本を読み上げるような、義務的な言葉だった。

扉を閉めるまでの一瞬、その声が頭の中で静かに反響した。

──私と同じだ、と思った。

やりたいことじゃないのに、やらなければならないことをやっている。今日の私が、まさにそうだったから。

廊下に出た瞬間、膝の力がすっと抜けそうになった。壁に手をついて、ゆっくり息を吐く。

はぁ……やっと、終わった……。



帰り道。私は、真白さんと近くの公園で落ち合った。

ベンチに並んで座った瞬間、真白さんがすぐに立ち上がった。

「ありがとう、本当に助かったわ!」

「なんとか、無事に終わりましたよ」

真白さんは喜んで、私に抱きついた。

「今日のファンミ、最高だった! 蒼空くん、サイン3枚もくれて! 握手のとき、目が合って! 一生の思い出よ!」

両手でスマホを抱えて、その場でくるりと一回転する真白さん。

お嬢様がそんなことをするとは思わなくて、つい笑ってしまった。

「……よかったですね、本当に」

「ほんとうに! 結城さんのおかげよ!」

笑顔のまま、私は尋ねた。

「身代わりの件、これで終わりですよね?」