「如月さん、また会いましょう」
顔合わせの終わりに、景斗さんはそう言った。
笑顔はない。まるで台本を読み上げるような、義務的な言葉だった。
扉を閉めるまでの一瞬、その声が頭の中で静かに反響した。
──私と同じだ、と思った。
やりたいことじゃないのに、やらなければならないことをやっている。今日の私が、まさにそうだったから。
廊下に出た瞬間、膝の力がすっと抜けそうになった。壁に手をついて、ゆっくり息を吐く。
はぁ……やっと、終わった……。
◇
帰り道。私は、真白さんと近くの公園で落ち合った。
ベンチに並んで座った瞬間、真白さんがすぐに立ち上がった。
「ありがとう、本当に助かったわ!」
「なんとか、無事に終わりましたよ」
真白さんは喜んで、私に抱きついた。
「今日のファンミ、最高だった! 蒼空くん、サイン3枚もくれて! 握手のとき、目が合って! 一生の思い出よ!」
両手でスマホを抱えて、その場でくるりと一回転する真白さん。
お嬢様がそんなことをするとは思わなくて、つい笑ってしまった。
「……よかったですね、本当に」
「ほんとうに! 結城さんのおかげよ!」
笑顔のまま、私は尋ねた。
「身代わりの件、これで終わりですよね?」



