偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「お茶は、お好きですか?」

唐突な質問だった。親たちの会話に混じる形で、静かにそう聞いてきた。

「……ええ、まあ」

我ながら、素っ気ない返事だった。喋れば喋るほどボロが出る気がして、精一杯絞り出せたのはそれだけだった。

「それじゃあ、好きなお菓子は?」

「……甘いものは、あまり」

「そうですか」

景斗さんは、それ以上は聞かなかった。追い打ちもなく、茶化しもしない。ただ、ふっと話を終わらせた。

そして、また目を窓の外に移した。窓の外には何があるんだろう、とふと思う。あの目が見ているのは、きっと今ここじゃない。

「!」

次の瞬間、私は自分の目を疑った。

景斗さんの口元が、ほんの少しだけ、一瞬だけ持ち上がったのだ。

笑った、とは言えない。でも、無表情でもなかった。それは、この場のどの顔とも違う、ごく小さな変化だった。

彼は、すぐに元の表情に戻る。気づいていないふりをして、また窓の外を見ている。

なんだろう、この人……。

儀礼的なのか、それとも本当に気にしていないのか。

それとも──何かを、ひそかに楽しんでいるのだろうか。

かすかな違和感と、妙な引力が、テーブルを挟んで漂っていた。