「メイクアップアーティストになりたい。舞台のメイクも、SNSも、全部やってみたい。メイクで、もっとたくさんの人を笑顔にしたい」
「陽葵なら、絶対にその夢叶うよ」
「根拠は?」
「俺が応援してるから」
笑いをこらえながら、私は言い返した。
「……それ、前に私が言った言葉ですよ?」
「お互いさま」
しばらく歩いていると、ポケットの中のスマホが震えた。SNSの通知だ。
『今日のメイク動画、元気出ました!』
私は小さく笑って、スマホをしまった。
あの子や、みんなに届いている。その実感が、私にさらなる勇気をくれる。
景斗くんが、少し声を低くした。
「ねえ、陽葵」
ずっと逃げたかった自分の名前が、景斗くんの声で呼ばれるたび、大切な宝物に変わっていく。
「これからも、俺の隣にいてくれる?」
鼓動が跳ねて、体の中心から熱いものが広がった。
「もちろんです」
この人の隣に、ずっといたい。その気持ちだけが、はっきりとそこにあった。
「……あのさ。手、繋いでもいい?」
彼の声が、かすかに上ずっていた。緊張しているのだとわかった。
「……うん」
そっと、景斗くんの手が私の手に触れた。冷たかった指先が、徐々にほぐれていく。
握り返すと、景斗くんが少しだけ強く握り返してくれた。
顔を上げられなかったけど、このままで良かった。
熱くなった頬を、冬の夜風が優しく撫でていく。



