偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「肉まんがきっかけだったんですか?」

「うん。ガラスの靴じゃなくて、肉まん」

景斗くんがおかしそうに言って、私も笑いをこらえられなかった。

二人とも口を閉じて、しばらく肩を並べて歩いた。何も話さなくても、隣に景斗くんがいてくれるだけで十分だった。

隣を歩く景斗くんが、ふいに横目で私を見た。

視線が合いかけて、彼は照れたようにすぐ前を向く。何かを言いかけて、飲み込むような間。

冷たい空気の中に、二人分の息が混ざって消えていった。

「陽葵といると、今まで知らなかった世界が見えるよ」

景斗くんが、前を向いたまま言った。

「100円のコロッケとか、商店街の午後とか。俺には見えていなかったものが、全部きれいに見える」

私は、コロッケの最後のひとかけらを口に入れた。

「私も。景斗くんといると、もっと自分のことを好きになれる気がします」

景斗くんが、こちらに目をやった。

「それは、いいことだな」

「はい。すごくプラスになってます」